The Skin of City -都市の皮膚 大石 卓哉

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The Skin of City -都市の皮膚

photo by 大石 卓哉


古い路地のなかを歩いていると、 長屋の入口を塞ぐように張られていたシートが私に向かって 突然ドパっと音を立てて膨らみ、 そして静かに萎んでいった。
町を流れる風のせいなのか、 シートはその動きを何度も何度も繰り返す。まるで都市の深淵に潜む得体の知れない何かの呼吸そのもののようにー。

過去に建築の仕事をしていたことがある。辞めてからは工事現場には触れまいと見ることもな くなっていたが、あの日を境に私の目はシー トに惹きつけられていった。
シートはいちど張られてしまうとその先を見ることは出来なくなる。工事現場の埃や有害な物質から周辺住民を守り、あるいは火災が延焼しないように防護し、
そして、見られたくないものを隠すのがその役目だ。新築現場のものではなく、取り壊しやリフォームのために大きな重機が動いている現場に張られたシートは使い回されたものが多い。
そんな使い込まれたシートに残された皺には、 都市の記憶のようなものが重層的に染み付いているように思えるのだ。

うっすらと光を通すその先に広がる建築現場の闇は、町が抱える闇へと通じている。向こう側で何かが蠢いているようで、恐怖すら感じることもある。
一枚のシートは空間は仕切り、世界を此岸と彼岸へと分けてしまう。まるで脈を打つように鼓動を繰り返し、その奥で新しい細胞を作り出していく。
その有機的な気配が表層に滲み出たとき、もはやそれはポリエチレンで縫い合わされた物質ではなく、生命の根源である宇宙へとつながる美しさを伴って私の前に立ち現れる。

それは町のいたるところで繰り返し現れては消えていく。僅かずつ新しい細胞を手に入れた町は、やがてその姿を大きく変えていく。
そして、いつしかそこは知らない場所になっている。 町は、どこへ行こうとしているのか。シートの呼吸に潜むものは何なのか。
私は、得体の知れない都市の皮膚の向こうにひきずり込まれていく。


大石 卓哉( Ooishi Takuya )

○略歴
1985年愛知生まれ/現在大阪在住 写真家

HP:只今製作中

個展: 2019.7『都市の皮膚』(photogallery sai)


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