DOTO 松井 宏樹

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DOTO

photo by 松井 宏樹


道東と呼ばれる北海道東部には、かつて暮らしていた海辺の町がある。
暮らし離れてからも度々訪れていたその町に、僕はもう一度暮らすことを決めた。
通過者ではなくそこに暮らすものとして、憧れた土地の光と影にカメラと触れてみたかったのだ。

2016年2月より道東で記録する。


松井 宏樹

【略歴】

1983年 静岡県生まれ
2005年 東京農業大学オホーツクキャンパス卒業
2009年 東京ビジュアルアーツ卒業
2012年 GRAF Publishers設立、写真同人誌『GRAF』刊行(2014年、vol.08まで活動)
2015年 自主レーベルPINE TREE BOOKS設立
2016年 北海道網走市へ移住

○個展
・2007年 「KITAKAZE」Gallery街道(東京)
・2008年 「IZU 09 February」Gallery街道(東京)
・2009年 「CHILL OUT」ビジュアルアーツギャラリー東京
・2012年 「水中メガネ」こどじ(東京)/「毎日GRAF」バー鳥渡(東京)
・2013年 「KITAKAZE-2012」こどじ(東京)/「KITAKAZE」TOTEM POLE PHOTO GALLERY(東京)/「KITAKAZE」九州ビジュアルアーツギャラリー(福岡)
・2014年 「毎日GRAF2」こどじ(東京)/「green hills & town」café gallery momomo(東京)
・2015年 「BERLIN 2014」こどじ(東京)/「SUNNY」 Gallery Niepce(東京)
・2016年 「道東」こどじ(東京)
・2017年 「DOTO」オホーツク・文化センター(北海道)/「DOTO 2」こどじ(東京)

○グループ展
・2009年
「写真・九州・四人・展」art space tetra(福岡)
・2010年
「END of the earth HOKKAIDO」ギャラリー街道リぼん(東京)
・2012年
「GRAFスライド&ポスター展」そら塾(東京)/「GRAF vol.02写真展 - 奈良へ」gallery10:06(大阪)/「GRAF vol.03写真展 - 静岡 富士山を越えて」ビジュアルアーツギャラリー東京
・2013年
「GRAF vol.04写真展 - 大分、豊後水道に月」platform 02(大分)/「GRAF vol.05 Slide projection - 福岡モノクローム」FUCA(福岡)/
「GRAF vol.06写真展 - 20130401」gallery福果(東京)/「GAW展Ⅷ」新宿花園ゴールデン街(東京)
・2014年
「GRAF vol.07 写真展 - 写真の心臓へ」TOTEM POLE PHOTO GALLERY(東京)/「GRAF Publishers写真展 - GRAFの心臓へ」BLOOM GALLERY(大阪)/
「inbetween record vol.9 Fragments of Japan」in)(between gallery(Paris)/「NODE vol.01 Japanese Landscapes Photography」AIDEM PHOTO GALLERY SIRIUS(東京)/
「GRAF vol.08写真展 - 北へ」SPACE DENEGA(青森)/「NODE vol.02 - Japanese Landscapes Photography」目黒区美術館区民ギャラリー(東京)
・2015年
「NODE vol.02 - Japanese Landscapes Photography」VOLVOX(三重)
・2016年
「the backroom prints « Takara Buné» 」in)(between gallery(Paris)

○出版
2012年 『水中メガネ』GRAF Publishers
2012年 『GRAF vol.01』GRAF Publishers(2014年 vol.08まで活動)

HP:https://www.matsuihiroki.com/


VOICE テキストにも書かれていますが、道東という土地に憧れを持っていたと書かれていますね。松井さんと道東の出会いとこれまでの関わり、
そして松井さんがそこに住んでしまうほど引きつけた道東の魅力を教えてください。

松井 少し長くなりますが、18歳のとき網走にある東京農業大学オホーツクキャンパスへ入学しました。そこで4年間暮らしたのが道東との出会いになります。
出身地の静岡県浜松市とはまったく違う風土は当時の僕にとってカルチャーショックでしたし、とても心地よいものでした。
その土地で当たり前に起きていることにただ単純に感動し、大きな自然に包まれて生活しているような感覚は、今まで感じたことのないものでした。
寒冷地特有の大きな季節の流れと、そこに存在する自然と人の営みが、僕の感覚にちょうどフィットし、心を寄り添える場所に感じたんだと思います。

卒業後は静岡県に戻り就職したのですが、心にぽっかりと穴があいてしまったような状態になってしまいました。
心のよりどころをなくしてしまったような気がしてひどく落ち込んでいた時期があり、網走での生活がいかに心を満たしてくれていたかを感じました。
同時に、思い出が記憶の中にしかないことが寂しくて、これからは忘れたくないものは写真に撮ると思い、この時期に写真を撮ることを始めました。
その後、2007年に東京ビジュアルアーツに入学し、その年の夏に網走へ撮影に訪れ2013年に刊行した「北風」という写真冊子の元となる写真を撮影しました。
以降時間を見つけては道東へ訪れて撮影をしてきたのですが、行くたびに住みたい気持ちが大きくなっていきました。
短期間で通過するのではなく、そこに住んで見えてくるものがあるはずだと。本当に自分が心を寄り添えるものがやはりここにある気がしてなりませんでした。
東京に住んで約10年間写真活動をし、日本の様々な場所へ訪れましたが、そう思える場所は道東だったのです。

憧れの土地と書きましたが、ずっと追い続けていた道東の光と影に、いまカメラを通して寄り添える事が嬉しく感じています。

VOICE 作品に使用したカメラとレンズを教えてください。またその機材を選ばれた理由はなんですか?

松井 使用カメラはPENTAX67Ⅱ、レンズは標準90mmです。フィルムはコダックのT-MAX400です。
それまではずっと35mmのフィルムカメラを使用していましたが、以前に撮った北海道の写真と違うフォーマットにすることで、
網走へ移る際の気持ちを一新させたかったことと、フットワークを維持しつつ、35mmよりもじっくり撮れる中判カメラの方が、しっかり向き合える気がしたからです。

VOICE 今回の作品は全て横位置で撮られていますね。 あえて、縦位置を排して、横の写真で統一された理由はなぜでしょうか?

松井 縦位置が嫌いというわけではないのですが、横位置は人間の視界に近いので、見た雰囲気や感じたものをそのまま伝えやすいかなと思っています。
また、写真一枚一枚均等に並べることで、統一の中で生まれる差を見出せていけたらと思い、基本的には同じサイズ、同じフォーマットにしたいと考えています。

VOICE この作品を撮られるようになった動機、撮影場所を選んだ理由や作品作りで苦労した点などがあれば教えてください。

松井 動機と言えるかわかりませんが、僕は北海道生まれでもなく、道東はもともとゆかりのある土地ではありません。でも、きっかけがあり縁が出来たと思っています。
人は様々な場所で生活をしていますが、人生の中でこういった縁のある場所は決して多くないですし、そこで撮りたいと思えることが嬉しく感じています。
個人的な思い入れが大きいですが、人それぞれに大切な出会いがあり、僕にはそれが道東なんだと思っています。

道東と言っても非常に広い範囲なので、撮影場所は車で探し回ることになります。行ったことない場所も多いですが、自然と人気が少ない場所で撮影することが多いです。
人の手が入っているギリギリのところ、と言えば伝わるでしょうか?自然と人との境界線のようなエッジ部分に反応することが多い気がします。
そういった場所が多いのも、道東の特徴であり惹きつけられる要因だと思います。

何かを撮ろうと決めていることはまずないので、心の寄り添えるような場所や場面に出会うことが一番難しく大切なことだと思います。
あと、行きたいところにちょくちょく「ヒグマ出没注意」の看板があってリアルに怖いので、
大げさかもしれませんが出没シーズンは熊撃退スプレーをぶら下げて撮影しています。

VOICE 略歴に2016年より北海道網走市に移住と書かれていますが、実際に住んでみてどうでしたか?想像していたのと違ったことや新しい発見などがありましたか?

松井 大学生活で4年間住んでいた町なので土地勘はあり、違和感はないだろうなと思っていましたが、
当時とは住む理由や気持ちが違うため、生活の一つ一つが新しく感じ、初めて暮らすような感覚でした。

被写体の中で暮らすことは初めての経験で、多くの時間を撮影に割けることはメリットなのですが、
半年ほど経った頃から同じようなものばかり撮っていることへの不安や焦りも正直なところありました。
でも、住んでいるからといって道東すべての物事や文化を撮影出来る訳はなく、僕が何を欲求しどこに寄せられていくのか見つめ直す良い時間でした。
自分がしたいこととやらないことへの覚悟ができた気がしています。
もう後にも引けないし、町のスナップショットも全然シャッター押せないので、開き直ることも大切だなーと思っています。

VOICE 松井さんは自らレーベルを立ち上げて写真冊子の出版にもチカラを入れていますね。写真家活動の中で松井さんが出版物に拘っている理由はなんでしょうか?

松井 一つは写真を本という形にして残すことで、多くの人に手にとって見てもらえることです。
写真展で見る生のプリントとはまた違う、写真を表現する上でとても優れたメディアのひとつだと思っています。
手でページをめくる手触り、紙やインクの匂いといったものも含め楽しめる写真集、写真冊子という形が好きなんです。
写真集を通じて人と繋がれるなんてとても素敵なことだと思ってます。

もう一つは本を作成することが楽しいからです。 2012年から2014年まで写真同人誌GRAFの製作に関わってきました。
当初はインデザインもイラストレーターも初めてで四苦八苦していましたが、慣れてくると楽しくて苦しくて、すっかり沼にはまってしまいました。
細かい作業ですし徹夜も多く、考えることもたくさんありますが、性分に合っていたんだとおもいます。

VOICE この作品ですが、人はあくまで風景の一部として遠景で撮られていますね。 あえて、人にクローズアップせずに人を小さく写した意図はどうしてでしょうか?

松井 あまり人を撮る機会は少ないのですが、おっしゃる通り人も風景の一部としてアプローチしているからだと思います。
人ひとりの存在は現代社会において誇大されたり忘れられがちです。
人がフィールドの中で活動している状況を離れて撮ることで人間のスケールを明確にしたいという気持ちが少なからずあります。
道東のような大きな自然の中で人が活動している環境では、そういった観点からの写真へのアプローチも可能だと思っています。
また、撮影において視点の違いというか、人を中心に物事の視点を合わせればクローズアップしていくのだと思いますし、
僕は基本的に人以外のものから視点を合わせていくことが多いので、自ずと人のスケール感が小さく写っているのだと思います。


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